#22 わいせつと自由の攻防:まんこvs警察!

by まんこアーティスト・ろくでなし子さん

freedom of expression


 先月、ある女性アーティストが逮捕された。容疑は「わいせつ電磁的記録記録媒体頒布罪」つまり、「わいせつ」なデータをばらまいたというものだ。権力が表現の自由を脅かしたと物議をかもしたこの事件。しかし、よくよく話を訊いてみれば、ぷっと笑ってしまうことばかり。

 いや、決してこの事件を矮小化しようというのではない。表現にたいする権力の介入ほど、私たちの自由な思想を萎縮させるものはない。なぜなら、その判断は至極あいまいで、彼らが“黒”だといえば「黒」になりかねないからだ。

 それにしてもヘンテコな事件。一体何が起きたのか。事件の核心は一体なんなのか。1週間の勾留、取り調べの後、弁護団の準抗告が認められ(裁判所は検察官の勾留請求を却下)釈放された彼女に訊いた。

 

(文/訊き手・小澤治美/河村由美 写真・宮津かなえ)

 

 事件が起きたのは712日。彼らは何の警告もなくやってきたという。

「自宅にピンポーンって、10人ぐらい。警察手帳と令状を見せられて『ガサ入れするから』ってドカドカ入って

ろくでなし子さん
ろくでなし子さん

きて」

 彼女のパソコンを勝手に開いて、部屋のあちこちにある作品を押収し始めた。

 ろくでなし子さん(本名・五十嵐恵さん、42歳)は、女性器をモチーフにポップな作品を制作するアーティストだ。代表的な作品「デコまん」は、手のひらサイズの石膏で直に自分の性器を型どり、まるで山脈のようになった形のところへ模型の木を植えたり人を置いたりしてデコレーションするというもの。これまでにも個展を開いたりサイト上に作品をアップしたりしてきた。ところが…。

「『これは五十嵐さんのアソコですか』って。まず(捜査員たちは)まんこって言えないんだっていうのがおかしかった」

 彼らはひとつずつ作品の名前を確認していく。

  捜査員:「これは何ですか」

  なし子:「私のまんこです」

  捜査員:「これは3Dで取ったやつかな」

  なし子:「いえ、手どりのまんこです」

「最後の方は警察もまんこ、まんこ、言ってる。『こっちにまんこありました!』って。みんな慣れてきちゃって」と、なし子さんは笑うが、まさか逮捕されるとまでは思っていなかったという。

 押収された作品は19種類、58点に及ぶ。その中には彼女がクラウドファンディングを利用し制作したあの作品も。

 それは、なし子さんが3Dプリンターで自分の性器をスキャンし出現させた巨大な作品(正確には、それをさらに加工してカヤック[]にしたもの)、その名も「マンボート」だ。このプロジェクトで、彼女は資金応援してくれた人たちへのお礼(クラウドファンディングで言うところのクーポン)として、スキャンしたポリゴンデータを7日間限定でダウンロードできるURL(サイトのリンク)を送信した。

 これが「わいせつ電磁的記録記録媒体頒布罪」にあたるとするのが、今回の容疑だ。しかし取り調べをうけていくうちに、クラウドファンディングとは何ぞやというところから彼女自身が説明するはめになったそう。供述書にサイト名「クラウドファンド」と書いてあったり、送信したのはURLではなく画像そのものだと誤解されていたり。

「3Dで何かを挙げたかったんじゃないかと思う。3Dデータでわいせつを摘発したかったんじゃないのかな」

 男性週刊誌で最近目にする「女性器特集」。3Dプリンターで女性器を取ってみたという袋とじ特集などもあり、なし子さんもコメントを求められたりしていた。

「そっちのほうには警察の警告がいっていたらしい。(でも)大手出版社を検挙するよりは、個人でフリーの女が目をつけられたんじゃないかと」

 起訴、不起訴の決定はいまだされず、捜査は続いている。もちろん押収された作品も戻ってきてはいない。

 

「わいせつ」とは何か

 そもそも「わいせつ」とは何を指すのか。非常にあいまいではあるが、司法では一応の目安がある。小説『チャタレー夫人の恋人』の翻訳出版と刑法175条をめぐる「チャタレー事件」(S32.3.13)だ。最高裁判所大法廷の判決によると、「わいせつ」とは:

 1.徒らに性欲を興奮または刺戟(しげき)せしめ

 2.且つ普通の人の正常な性的羞恥心を害し

 3.善良な性的道義観念に反するもの

を指すのだそう。わいせつと自由の攻防には、長い歴史があるのだ。

 この判決を見ても「わいせつ」とは何かを定義づけることがいかに難しいかわかる。何に興奮を覚えるかは人それぞれだし、そもそも「正常な性的羞恥心」って何だろう。たいていの人はみな自分が「正常」で「善良な性的道義観念」を持っていると信じているのではないだろうか。

 今回警察がなし子さんの逮捕にまで踏み切ったのは、山脈のように筋がいくつか入ったポリゴンデータをみて、自分の“正常な性的羞恥心”が害されて “善良な性的道義観念”に反しイタズラに興奮を覚える人がいるということなのだろうか?

 なし子さんは、なぜ女性器をアート作品にしようと考えたのだろう。

「日本のアダルトサイトでは、たとえば肉体が合体しているときにモザイクをかければオッケーだよ、みたいなすり抜け方をずっとしてきている。それ自体はものすごくエログロでも、とにかく性器を隠せばオッケー」

 電車のつり広告ひとつをとっても、男性主体のわいせつな言葉の羅列がある。それは「におい付きとじ袋」なんていう(少なくとも筆者には)まったく理解不能なものから、特定の個人の人格を傷つけるような暴力的なものまで。

「直接的な言葉さえ伏せ字にしておけばオッケー。本来ならわいせつなものではないはずの単なる性器が悪者になってしまっているように感じる」

 インターネットで検索すれば大抵のことが目に飛び込んでくる時代。この21世紀、日本の女性たちは、世間がいまだにわいせつだと騒ぐものを体の中心に抱えて生きている。

「まんこって言ったら自分の作品を発表できなくさせられたり、今回みたいに逮捕されたりという状況にすごく腹が立つ」

 女性器が“わいせつ”で“いやらしいもの”だとしておきたいのは誰なのか。そして、そこに抗おうとする女性が「ますますおとしめられる」のはなぜなのか。

 それでも、逮捕・勾留された夜には、さすがになし子さんも悩んだとか。

「こんなところ早く出たほうがいいから(容疑を)認めたほうがいいのかなって」

 でも、それは彼女のアーティスト生命を断つどころか、これまで自分が信じて行ってきたことをすべて否定することになる。なぜなら彼女のアーティストとしての信念は、何より「女性器はわいせつ物ではない」というところにあるのだから。

 翌日の夜、彼女はようやく当番弁護士と接見することができた。そして外では彼女の釈放を求める署名運動が始まり、弁護団が結成されているときく。

「すごく安心した。何がなんでも闘おう、と思った」

 奇しくも彼女とのインタビューの前日、愛知県の美術館では身体美を撮り続けている写真家の作品に警察の警告が入った。男性器が隠されていないという理由で。

 ろくでなし子さんの闘いは、先人が闘ってきたわいせつと自由の攻防の先にある。そして、それはより女性の目線へと均衡をとり始めているのだ。 

 

NTM



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コメント: 1
  • #1

    ラン (土曜日, 23 8月 2014 11:49)

    女性の性器を見るなら、Play Boy のようなアメリカやヨーロッパの雑誌。
    エロチシズムなら日本。漫画が一例。日本の場合は本物を見せなければ、
    なにをやってもいい、というような気がします。わいせつの意味が本当に曖昧。