arts/sexual orientations

2014/09/13


#23 この世界は君のもの

劇団トランス☆プロジェクト 第8回公演 『The World is Yours』


 もし誰にでもなれるとしたら、あなたはどんな人になりたいと思うだろう。もし生まれもった性以外の人間になれるとしたら、どんな人生を生きたいと願うだろう。それが叶えられる場所がひとつある。人がそうありたいと願う何者にでもなれる場所 — 舞台だ。

 GID/Gender Identity Disorder(性同一性障害)の当事者とその仲間たちによるミュージカル『The World is Yours』が来月公演される。他の舞台にはない挑戦や醍醐味がそこにはありそうだ。熱のこもる彼らの稽古場へ伺った。

 

(文・小澤治美 写真・宮津かなえ)

 

「天空の柱の上にひとりひとり立って会話をしているような感じで」

「曲の後は刺すようなセリフで入って」

 ある日曜日、都内の稽古場ではこの舞台の演出を担当する井原一樹さんからさまざまな要求が飛んだ。キャストやスタッフは、他にも仕事を抱えながらこの舞台に取り組んでいる人がほとんど。週末は長時間の稽古ができる貴重な機会だ。

 劇団トランスプロジェクトはGIDの問題をより多くの人に知ってもらおうと1998年に設立された。舞台公演以外にも、学校での出張授業や劇団メンバー以外の人が自由に参加できるダンスレッスン、ピラティス、ヴォーカルトレーニングなどのワークショップを開催している。

 来月第8回の公演は2年ぶり。そこへ向けられる思いも大きい。

「(夕方)5時過ぎまで仕事を持っていて、夜8時半とか9時くらいにきて一生懸命稽古をしてくれる人もいる。すごくバイタリティがある」

 トランスプロジェクトのメンバーで(FTM/Female to Male/女性から男性へ適合したGID当事者)の冴瑪悠さんがそう話してくれた。

 キャストは20人を超え、他のスタッフもあわせるとかなりの大所帯。第7回公演の再演とはいえ、出演者も増えているし脚本もセリフも微妙に変わっている。

 なにより今回はオーディションを行い、演者が大幅に入れ替わった。トランスプロジェクト代表の月嶋紫乃さんによれば、GIDや性の問題について「全然知らない人も加わってくれている」そうだ。

LGBTLesbian, Gay, Bisexual, Transgender)についてとか、そういうことを毎

回レクチャーする。これをきっかけに知らない人も知ってもらえればいいな、というところもあって。どう接したらいいかわからないみたいになっちゃうと、お互いに気まずかったりする」

 GIDの当事者がミュージカルの舞台に立つことは大きな挑戦だ。たくさんの観客の前で自分をさらけ出すことは誰でも勇気が要る。それに加え、彼らにとってもうひとつの挑戦は“声”だ。

「例えば、自分としては低い声を出したいと思っているけれど実際の声自体はちょっと高かったり、もしくは高い声を出したいと思っているけれど自分の声自体は低かったり」(井原さん)

 男性の声帯で女性の声を出したい、女性の声帯で男性の声を出したい、しかもミュージカルの舞台で。この挑戦に向かうために、キャストには複数のヴォイストレーナーがついている。

 彼らの体調もにさまざまなコンディションがある。ホルモン療法をしている人、していない人、そしてFTMなのかMTFMale to Female/男性から女性へ)なのかによって


声の調子は変わってくる。

 それでも、もっとも優先されるのは「その人が出したい声」に関しての本人の希望だ。(月嶋さん)

 それはこの舞台のストーリーにも通じている。

 舞台はインターネット上の仮想空間。性同一性障害の主人公・マキトは、肉体的な性別は女性だが男性として生きたいと思っている。性別を自由に選べるネット上で、マキトはアバターたちに男性して受け入れられていく。そこで出会う仲間たちもさまざまな悩みを抱えていて ― 。

 それぞれが本当の自分を手に入れたいと願っている。そんな群像劇のようだ。

 劇団のテーマとして、やはり強いメッセージ性がこめられた舞台になるのだろうか。

「切り口としてはGIDを扱っているが、それを押し付けるようなことは絶対にしたくない。そこのさじ加減は毎回とても気をつけているところ」(月嶋さん)

「笑いが起こればいいなと思っている。トランス☆プロジェクトがやるという段階でメッセージ性が強いものだと思って足を運ぶ人が多いとは思う。それをいい意味で裏切りたい」(井原さん)


「人ごとと思ってほしくない」

 この16年で、トランス☆プロジェクトの公演を観に来る人の幅も大きく広がってきた。1回目から訪れている人たちはずっと大人になり、若い人たちを連れてきてくれる人もいる。子どもがGIDかもしれない、そう感じている親世代の人たちも観にきてくれている。

 現在のトランス☆プロジェクトの集大成となる音楽劇。「楽しんでほしい」という気持ちの奥にある、観客に伝えたいものとはなんだろう。

「簡単に差別する側にもなれば差別される側にもなる、そういうことって延長線上にあると思う。人ごとだと思ってほしくないということは、第1回の公演から思ってやってきた」(月嶋さん)

「今、みんな差別はよくないと思って生きていると思う。でも差別はよくないと思っている人が、きっと差別をするだろうなと。逆に言えば、性同一性障害を持っている人も身体障がいのある人に対しては差別的な心をもったりすることもあると思う。まず『自分は差別をしない』と思わないでもらいたい。それが一番伝えたいこと」(井原さん)

 人間の性は虹色のようだという。男、女のふたつに白黒分けられるものではないのだと。異性同士引かれ合う人たちもいれば、同性同士愛し合う人たちもいる。生まれたままの性を疑わない人たちもいれば、そうではないと感じる人たちもいる。

 条件が満たされれば、戸籍上の性別も変更できるようになった。自分の性を選択する多くの人たちが声をあげるようになった。それでも、あるがままの自分を舞台の中央で叫び歌うことは、どれほど大きな勇気であり挑戦だろう。

 それをぜひ、間の当たりにしてみたい。

 

(interview joined by 河村由美)

 

NTM

 

劇団トランス☆プロジェクト第8回公演

『The World is Yours』

作・演出 井原一樹

2014/10/01~2014/10/05

 

会場:テアトルBONBON

前売り:3,500円

当日:3,800円

ペア:6,000円

 

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#01 本当の自分を獲得しよう!


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