Ready To Move?


#25 世界的地域おこし 北ルソンからはじめよう

by EDAYA代表 山下彩香さん Part II

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 フィリピン・ルソン島の山々に住む少数先住民族、彼らの無形文化を継承する仕組みづくりに取り組んでいる山下彩香さん。活動開始から2年が経ち、これから目指すべきビジョンがより鮮明になってきたようだ。

 世界的規模で地域おこしの波をつくりだすこと。それは、地域社会に住む人々が自信と力を持ち、自らを発信していくことを意味する。まずはその成功事例になりたい。世界のエスニックマイノリティたちが真似をしたくなるようなモデルケースを目指す。一時帰国した山下さんに訊いた。

 

(文・小澤治美)


 山下さんが活動の拠点としている北ルソンのコーディリエラ地方。「イゴロット」と総称されるいくつかの少数山岳民族がそれぞれに伝わる知恵や音楽、踊り、フォークアート、シャーマニズムなど、豊かな文化を育んできた。「首狩り族」が住むと怖れられ、スペインの植民者も近寄らなかった奥深い山々で受け継がれてきた世界だ。

 しかしそこで出会う若者は、多くが鉱山で働くか、村の生活を捨て大きな都市や海外へ出稼ぎに行ってしまう。山下さんは、彼らが本来持っている魅力をポジティブに発信したいと考えた。

「例えば鉱山労働者は、自分というものを表現する機会が全然ない。資本主義にまみれて一生懸命日々を過ごしている。もっと自分らしくありのままでいいというメッセージを発信したかった」

 山下さんが代表をつとめるEDAYAの活動は多岐に渡る。まず、北ルソンで出会った竹工芸家で音楽家のエドガー・バナサン氏と立ち上げたジュエリーブランド。竹

写真提供:EDAYA
写真提供:EDAYA

の民族楽器や村の暮らしに根付く素材をモチーフにしたアクセサリーをデザインし、村人たちに製作してもらう。

 その他にも、カリンガ族の村の長老から子どもたちへ竹楽器の制作、演奏を指導するワークショップを行ったり、伝統楽器を通して世界中の人たちをつなぐ活動をしたり。

 去年お話を訊いたときには少なからず混沌としているように感じた自らの活動を、山下さんはこんな風に説明してくれた。

「豆腐もつくるけど、豆腐の文化もリサーチする」

 たとえば日本のようにいろいろなものを記録する文化のあるところは、新しいスタイルや技術をどんなに取り入れても、また伝統的な基礎に戻って来ることができる。いつでも“昔ながらの豆腐”をつくることができる。

「途上国の場合を考えると、記録がまったくないところがほとんど。口承伝統でずっときている」

 外からの文化流入に影響されやすく、地域で長く培ってきた豊かな価値観もあっという間に塗り替えられてしまう。

 彼らが無形文化を継承していける枠組みを。そのためのジュエリー製作であり伝統楽器のワークショップだったが、それをより明確に、収益を目指す部分と伝統文化のリサーチや記録をする部分、つまり“豆腐屋さんが豆腐文化もリサーチする”というモデルに考えかたを整理したのだとか。

 それにしても、なぜ例えが豆腐屋さん?

「現地の人が真似できるレベルの大きさであること、小さくてもインパクトがある会社であること、自分たちのルーツやアイデンティティに結びついたプロダクト、現地の人たちの意見ができるだけ反映されたビジュアルづくりがされていること、100年続くような組織体であること」

 そう考えた時、イメージしたのが地方の小さな豆腐屋さんだったそう。

 東京大学大学院で人類生態学を研究していた山下さん。北ルソンの鉱山における労働環境を調査する傍ら、山岳民族の村々で文化が衰退していく様を目の当たりにしたことが、EDAYA立ち上げのきっかけだった。

 しかし「あなたたちの文化は素晴らしい」と外から来た人間がどんなに言っても、その文化を継承する地元の人間たちがそれを信じて動かなければ活動は立ち行かない。

 今回、EDAYAでは最新ジュエリーの広告モデルにカリンガ族の母をもつ女性を起用した。16歳の大学生でバギオ出身のライザさんだ。褐色の肌に、後ろに束ねた豊かな黒髪が美しい。

 しかし、彼らが考える発信したいイメージと市場で売れるものとのバランスをとることは、山下さんにとっても難しいことだったそう。

「フィリピンの表現だと、強い女性のイメージは明る

写真提供:EDAYA
写真提供:EDAYA

い。100パーセント、スマイル。『コスモポリタン』誌の表紙みたいな。日本ではより保守的なイメージ。芯がある、つんとしたような強さ。現地の人たちと議論をして納得してもらった上でこのトーンで撮ってもらった」

 そういった試行錯誤のひとつひとつが、少しずつまわりの人たちに変化をもたらしていけたら、そう考えている。

 昨年、山下さんは現地の職人でビジネスパートナーのエドガーさんをつれて日本の地域おこしの現場を見て回った。新潟や島根を訪れた彼は、古民家を再生した場づくりにとても共感したそう。

 その後地元の名産であるコーヒーを使って、一杯無料で飲むかわりに本を一冊提供してもらうキャンペーンをはじめた。集まった本は6000冊。自宅を開放し、地域の図書館をオープンした。

 世界のマイノリティたちが真似したくなるようなビジネスモデル。それは必ずしも大きな収益をあげることだけではないと思っている。自分たちにもできそうだと思わせる規模感、メリットがありそうだと思わせる事業展開、何より生まれ育った地域に自信がもてるようになること。

 そのための一歩は、すぐ近くにあったようだ。

「まずはエドガーさんが変わること。私は、すごく変わったと思っている」

 

NTM

 


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