特集第25回:罪と再生のはざまで

music/social support


 初めて刑務所のステージに立ったときは、マイクを持つ手が震えた。

 鳥取県倉吉市出身の北尾真奈美さん(36)と同じく鳥取県琴浦町出身の井勝めぐみさん(39)。メジャーデビューして1年も経たないころのことだ。

「それまで小学校などでのコンサートはしていた。私はすごく楽観的に考えていて、対象が大人の男性になっただけかなと」(まなみさん)

 しかし、ステージから見る風景は想像していたものとは全く違っていた。全員が同じ灰色の服を着て、自分たちのトークに誰も反応しない。となり同士言葉を交わす人も、腕組みをする人も、よそ見をする人すらいない。

「みんな、微動だにしない」

 歌と歌の間で拍手をするとき以外にぎった拳を膝の上に置く姿勢を崩してはいけない、そういうルールがあることを後で知った。

 刑務所で歌うようになったのは、鳥取県内でまだインディーズとして活動していたころ、まなみさんの地元倉吉市の一日警察署長をふたりで務めたことがきっかけだ。

「職員さんとお話をしている中で、歌がさわやかだからそういう施設で歌ってみたら喜ばれるんじゃないです

まなみさん(左)とめぐみさん
まなみさん(左)とめぐみさん

か、って」(まなみさん)

 鳥取の刑務所で歌ったあと、すぐに山口の刑務所でコンサートをする話が舞い込む。

「本格的にPaix2として何ができるかと考えたときに、また“刑務所”というワードがでてきた。これは、ここで何かをなせということなんだろうなと思った」(めぐみさん)

 最初は何の反応もないと思っていた刑務所のリスナーたち。しかしステージの回数を重ねていくごとに、あることに気づいた。

「動かないかわりに、顔の表情がすごく出る。ステージをはじめる頃の表情と終る頃の表情というのは、ひとり

 彼女たちがPrisonコンサートで歌う曲のなかに『元気だせよ』という明るい応援ソングがある。手を頭上に突き上げて歌うサビの部分。いま多くの刑務所で、受刑者も一緒に手を振り上げて歌うことが許されている。これができるのは、10年以上刑務所でのステージを重ねてきた彼女たちだからこそなのだとか。

「初めてのときはお互い緊張の中でスタートする。何回か(同じ刑務所に)行くと何かが違う。緞帳があいたすぐ後でも若干温かいものを感じる。そういうときは、前にも聴いてくださっていたんだろうな、と」(めぐみさん)

 だから「その瞬間だけ」は、100パーセント受刑者の

写真提供:88entertainment
写真提供:88entertainment

ひとり違ってくる」(まなみさん)

 当初は、音楽の時間を楽しんでもらえたらいいと思っていた。しかしさらに回数を重ね施設の職員と話をするなかで、刑務所で歌うことの意味をより深く考えるようになっていったという。

「受刑者がいるということは被害者もいるということ。ただ音楽を通して楽しんでもらうだけではだめじゃないかと」(めぐみさん)

 いま彼女たちが「Prisonコンサート」と呼ぶ刑務所や矯正施設でのステージは、バラードを中心に2部構成。アップビートなものは前半に、少し和んできたところで後半は少しずつ人生を振り返るような時間を作るようにしている。

 

その瞬間は彼らだけのために

 曲の合間に話す内容は、かつて看護師だっためぐみさんが経験した命の現場について、また、ふたりが考える幸せについて。説教じみたことは決して言わないし、言えないと思っている。

「(塀の)中の人たちは、なんとかしなきゃ、ってもがいている人もいると思う。ちょっと背中を押してあげるというか、そこからの“脱出経路”みたいなものを自分たちが発したメッセージの中から感じてもらえれば」(まなみさん)

ためだけに歌っている。そう心のスイッチを切り替えている。

「誰かの心を動かすには、『Paix2が自分のためにエールを送ってくれるならがんばろうじゃないか』って思ってもらうには、やっぱりそういう思いで挑まないといけない」(めぐみさん)

「そこに被害者がいるからあなたたちはだめなんだとぶつけたところで」それは彼らのためにならないんじゃないかと思うからだ。

 えん罪や国家権力の濫用を防ぐため、法的に厳格な扱いを保障されている被告人や受刑者たち。一方で、被害者や遺族の権利は法的にも社会的にも見過ごされてきたという指摘がある。彼らは報道によって社会の目に晒されやすく、しかし法廷で発言したり質問したりする機会はほとんどない。

 それまで公の場に出ることが少なかった犯罪被害者や遺族たちは団結し、法律の改正などを訴えて声をあげるようになってきている。

「人権を奪って(刑務所に)入る人がいる。その被害者や遺族のことはどうなんだっていう思いもある」(まなみさん)

 もしも被害者側からコンサートの依頼があったらどうする?そう訊いてみた。

「挑戦してみたい」(まなみさん)

「直にお話をきいてみたい。出会いを通して学び続けていくことが一番大事なのかなと思う」(めぐみさん)

 同時に、Prisonコンサートを続けていくことにやはり大きな意味を感じてもいる。再犯率を下げること、なにより、刑務所のステージで感じてきたことを外のリスナーにも伝えることで、憎しみや怒りにかられて罪を犯すことはしないでほしいと訴えることができるからだ。

 元受刑者が、花束と手紙を携えて彼女たちのコンサートにきてくれる。

『ラジオからも何度となく流れるお二人の歌(声を出して一緒に歌う事、施設では許されませんでしたが)私の心の応援歌として大事に、大事にして来ました』(直筆の手紙より抜粋)

 サインをもとめて、何度も聴き込んだのかぼろぼろになったCDを差し出す人がいる。特別少年院で聴いたPaix2のステージで、いつかバックに立ちたいと言う男性がいる。

 ユーチューブで見たギタリストの彼の両腕には、手首までびっしりとタトゥが入っていた。「弾いてもらうときには長袖を着てもらって」とふたりは笑う。

「ああ、音楽ってすごいな」(まなみさん)

 そう思わずにはいられない。


NTM


コメント: 3
  • #3

    波照間島 (金曜日, 14 11月 2014 05:36)

    Paix2の歩いて来た道は、想像できない程の葛藤と苦難の道ではなかったのだろうか、彼女たちが最近メディアに頻繁に登場して来ていますが、本来こう言う人達こそ評価されるべきではないかと思う。
    ひとつの道を極めると言うことは大変な事だ。
    一流と二流の差は「我慢の差」ではないかと思う。
    何かを成すには、まず彼女たちの努力と根性に学ばなければならない。
    頑張れpaix2!
    日本には貴女たちの様な人が居ることを誇りに思います。

  • #2

    (月曜日, 03 11月 2014 11:38)

    歌を一度聞いてみたい

  • #1

    流し雛 (日曜日, 02 11月 2014 17:58)

    Paix2の歌は、命の大切さや人と人との繋がりの大切さを伝えてくれる「生」への応援歌だと思います。刑務所や矯正施設のステージで感じたものが生かされているのかな。これからも心にしみる歌をお願いします。