stage

#7 『NO GOAL -HOMELESS WORLD CUP-』

 ホームレス・ワールドカップに参戦した日本代表・野武士ジャパン。彼らをモチーフに、チームが成長してゆく様を群像劇として描いたのが『NO GOAL』だ。

 舞台となるのはロッカールーム。ワールドカップの数ヵ月前、チームに新しい監督がやってくる。マネージャーの同級生で、かつては自身も選手として活躍していた女性だ。選手は5人。そこにボランティアスタッフの女性も加わって、ワールドカップに向かって一直線!…かと思いきや、選手たちはいたってマイペースでやる気があるのかないのかも分からない。

 監督が説明する戦術もちんぷんかんぷんの様子だ。おやおや?いきなり暗雲たちこめる中、次々に起こる問題の数々。ホームレスの選手たちには、それぞれに抱える事情があるからだ。

 パスポートが取得できなかったり、ギャンブル癖が抜けなかったり、家族とのトラブルを抱えていたり。ひとつひとつは深刻だが、仲間がいればいつしかそれも笑いになる。

 ホームレスサッカーの一番の目的である社会復帰に向けて、そして憧れのワールドカップに向けて、少しずつではあるけれど前進する選手たちの姿は観る者に爽やかな感動を与えてくれた。

 手がけたのは劇団青春事情。笑いと涙を散りばめた実に巧みなプロットで、一瞬たりとも観客の心を離さない演出は見事だった。何より野武士ジャパンの実情をよく理解し、それをエンターテインメントに昇華させているという印象を受ける。

 劇団青春事情は、東京都立駒場高校演劇部を母体に2000年に代表の松本悠さんを中心に旗揚げ。大学受験等のため、途中充電期間をはさみつつ、現在は7人のメンバーで舞台や映像作品を手がけるクリエーター集団である*。30代中心、テーマは「大人になりきれない大人たち」だ。

 彼らは、なぜホームレスサッカーに興味を持ったのか?代表の松本さんに訊いてみた。

「きっかけはテレビのドキュメンタリー番組だったんです。ちょうどその頃、次の公演はどんな内容にしようかと考えていて、なんとなくスポーツものがいいと思っていたんですが、王道のものはちょっと違うな、と。ホームレス・ワールドカップを題材にすることは、全員がスッと納得しました」

 すぐにホームレス・ワールドカップを運営するNPO法人ビッグイシュー基金に連絡を取り、その理念にも、自分たちに通じるものを感じたという。

 そして、実際に野武士ジャパンの練習に参加してみると「思った以上にみんな真剣。ガチで練習しているのには驚きました」と、松本さん。役者さんたちも、負けずと本気モードに火がついたようだ。

 野武士ジャパンのメンバー入りを目指す選手たちと一緒になってボールを追いかけ、汗にまみれ、土埃にまみれるうちに、彼らの顔には充足感がみなぎり笑顔がこぼれていた。生涯青春、大人になってもひとつのことに真剣になる姿勢は彼らの真骨頂なのだ。

 公演を前に、青春事情の稽古場にお邪魔してきた。他の劇団と決定的に違うのは、一人の演出家が舞台の方向性を決めてゆくのではなく、全員で話し合いながら作り上げてゆくところ。

「正直時間はかかりますが、より幅広い人に舞台を楽しんでもらいたいし、いろんな視点から面白いと感じてもらいたいんです。不思議と(方向性が)決まらない、ということはないですね」

 野武士ジャパンはポジションなどにこだわらない全員サッカー。青春事情もまた、全員演劇なのだ。チーム作りが何より大切。

 最後に松本さんは「観てくれた人が、明日仕事に行く足がちょっと軽くなるような舞台にしたいですね」と話してくれた。

「『NO GOAL』を通じて初めて野武士ジャパンの存在を知る人もいると思います。より多くの人にホームレスの実情を知ってもらいたいし、ビッグイシュー基金の活動にも興味を持ってもらえるきっかけになれば」

 野武士ジャパンと青春事情、2つの愛すべきチームから今後も目が離せない。

 

*公演には客演として参加している役者さんもいます。

 

NTM

(文・河村由美)

作・演出:青春事情

製作総指揮:松本悠 

脚本:高桑恭彦 

クリエイティブディレクター:伊藤誠

出演:大野ユウジ・加賀美秀明(青春事情) 大塚幸汰(アリエス) 

   池田嘩百哩(スターダストプロモーション) 佐野泰臣 

   中村貴子(チタキヨ) 阿南祐太郎 おがわじゅんや(MCR

 

企画協力:NPO法人ビッグイシュー基金・野武士ジャパン

主催:青春事情 http://www.jijou.jp/

 

2013/07/13

movie

#8 『終戦のエンペラー』

©Fellers Film LLC 2012 ALL RIGHTS RESERVED
©Fellers Film LLC 2012 ALL RIGHTS RESERVED

 毎年、終戦記念日がやってくる前には戦争にまつわる映画が封切られることが多いが、今年の話題作はこの『終戦のエンペラー』だ。正直、これをハリウッドが作ったということに、私は驚きを隠せなかった。

 まずはストーリーをご紹介しよう。舞台は、第二次世界大戦終結直後の日本。GHQによる戦後処理が進められる中、マッカーサー元帥は部下のボナー・フェラーズ准将に戦犯探し、特に昭和天皇の戦争責任についての極秘調査を依頼する。知日派で、戦前は日本人の恋人がいたフェラーズ准将は、日本の将来について真剣に考える人物であった。もしも天皇を処刑するようなことになったら、この国はどうなってしまうか…。天皇にも極刑をという本国の意図を棚上げして独自に調査を進める過程で、多くの日本人と出会い彼らへの理解を深めてゆくフェラーズ准将。そして、現在の日本の礎となる決定がマッカーサー元帥によって下されるのだった。

 誤解のないように言っておくと、今作にはフィクションの部分もかなり多い。登場するのは実在の人物が多いが、例えばフェラーズ准将に日本人の恋人がいたという事実はないし、昭和天皇の言葉として引用されている台詞も公式な記録には載っていないものである。その辺はエンターテインメントとしての表現方法であるとご理解の上、ご覧いただきたい。

 しかし歴史を知っていれば、「この人物にこんな台詞を言わせるのか!」と感嘆する場面などもあると思う。例えば、重要な登場人物のひとり関屋貞三は(日本ではクローズアップされることが少ない人物かもしれないが)昭和天皇を補佐する宮内次官だった男である。彼が、訪ねてきたフェラーズ准将に御製拝誦を聴かせる場面があるのだが、日本の映画やドラマでも、なかなかない名シーンだと思う。演じたのは、先日亡くなった夏八木勲さんだ。

 このシーンに代表されるように、今作ではディテールまで手を抜かない演出が目をひく。これまでのハリウッド映画のように「これは日本人じゃないでしょ!」と思わず苦笑してしまうということが、極端に少ないのだ。

 また、ハリウッドが描く戦時下の日本といえば、『パール・ハーバー』に代表されるように、憎き敵国として、また自害が美徳とされるような理解不能な民族として描かれることも多いが、この作品にはこれまでにない日本への尊敬の念のようなものが感じられる。日本人の美徳って?日本文化の根底にあるものって何?という好奇心ともいうべきだろうか。少なくとも正面からそれを研究して描きたいという真摯な姿勢が感じられたのが、嬉しくもあった。余談だが、マッカーサー元帥を演じたトミー・リー・ジョーンズは大の歌舞伎好きで、昭和天皇を演じた歌舞伎俳優の片岡孝太郎さんとの共演を心から楽しんだそうだ。

  立場や信条、年齢などの違いで様々な見方がある作品である。

 私が感じたのは、国と国の関係も、突き詰めれば個人と個人の関係が大切なのであり、互いを尊重する気持ちが物事を動かす、真の外交とはそうあるべきではないか、過去を責めるのことよりも共に進んでゆく未来のために互いの理解を深めよう、そんなメッセージが込められているのではないかということだ。

 アメリカ人は一体どんな風にこの作品を観るのだろう?ということも気になるが、私たち日本人にとってはこの国の過去と未来について考える良い機会となるだろう。

 できれば参院選の前に公開して欲しかった、とも思う。

 

NTM

(文・河村由美)

監督:ピーター・ウェーバー

出演:マシュー・フォックス、トミー・リー・ジョーンズ、初音映莉子、西田敏行、

羽田昌義、火野正平、中村雅俊、夏八木勲、桃井かおり、伊武雅刀、片岡孝太郎 他

配給:松竹

 

727日(土)より全国ロードショー

http://www.emperor-movie.jp/

 

2013/07/27

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コメント: 1
  • #1

    いとう しんご (金曜日, 16 8月 2013 04:02)

    映画は観てませんが、8月15日を今年も迎えていろんなことを考えさせられました。。。