art exhibition

#30 『ミシェル・ゴンドリーの世界一周』東京都現代美術館  

Photo: Ariane Rousselier, 2012, Moscow, Courtesy: Home Movie Factory Association
Photo: Ariane Rousselier, 2012, Moscow, Courtesy: Home Movie Factory Association

 独創的な映像で人気を博すフランスの映画監督ミシェル・ゴンドリーの展覧会が、東京都現代美術館ではじまった。

 私がミシェル・ゴンドリー監督の作品に初めて触れたのは2004年公開の映画『エターナル・サンシャイン』だった。記憶除去手術によって元カレとの記憶を消してしまった女性と、彼女と仲直りをしようとした矢先にその事実を知らされて自分も手術を受けようとする男性をめぐる、ちょっと変わったラブストーリーだ。ケイト・ウィンスレットとジム・キャリーが元恋人同士をキュートに演じていて、物語の独創性はもとより、そのポップで不思議な映像世界にすっかり酔いしれたのを覚えている。

 この『エターナル・サンシャイン』をはじめ『恋愛睡眠のすすめ』(2006)『グリーン・ホーネット』(2011)『ムード・インディゴ うたかたの日々』(2013)などの映画や、ビョーク、ザ・ローリングストーンズ、ホワイト・ストライプスなどのミュージックビデオも手がけるミシェル・ゴンドリー。彼の映像はおもちゃ箱をひっくり返したようにカラフルで賑やか、そしてどことなくアナログで手作りのぬくもりを感じるのが魅力だ。心の隅っこをちょこちょこっとくすぐるようなユーモアに溢れていて、まるで魔法にかけられたかのように心地良い気分になる。

 また、世界中で活躍する映像作家であると同時にアマチュア映画愛好家としての顔も持つゴンドリーは、『僕らのミライへ逆回転!』(2008)で、レンタルビデオ屋の店員たちが名作映画を自分たちでリメイクする(有り合わせの物を使って撮影するからとってもお粗末!)という形でその映画愛を爆発させている。映画ファンには最高に楽しいコメディ作品だった。

 この展覧会は、そんなミシェル・ゴンドリーの世界観をとても身近に感じられるものだった。内容は2部構成になっていて、第1部「ホームムービー・ファクトリー」は、来場者が実際に映画制作に参加できる体験型の展示だ。これはゴンドリー自身が考案したもので、これまでにニューヨークやモスクワ、サンパウロ、パリなどの各都市を巡回し、今回アジア初の展示となる。展示場には12の映画セットが組まれ、来場者はグループごとに脚本からキャスティング、演出、撮影まで全て行うというワークショップ。

 残念ながら、開催は週に3回ほどで定員制とうことで私は実際に体験することはできなかったのだが、セットを見ているだけでも心が踊った。カフェやお家のリビング、はたまた山の中など、実に様々なシチュエーションが用意されている。驚いたのは、例えばカフェにはカトラリーまでしっかり用意されていたり、リビングにはよく分からない置物がごちゃごちゃと並べられていたりと細部までリアルに作り込まれているところ。映画のセットに入ったことはないが、映らない部分まで作り込むのがプロの仕事というものなのだろう。などと感心しつつ、さてここでどんな物語を撮影しようかと想像力がかきたてられた。期間中には『人のセックスを笑うな』の井口奈己監督が参加してのワークショップも予定しているということだから、将来、映像作家を目指している人などは是非参加してみるといいだろう。

 そして第2部「Around the World in 19 Videos」では、ゴンドリー監督が手がけたミュージックビデオをインスタレーション形式で展示。ヘッドフォンをつけ映像の前に立つと名作ビデオの場面が次々とランダムに映し出されていく。

 私はヘッドフォンのボリュームをめいっぱい上げてみた。すると、部屋でYouTubeを観ているよりずっと作品にシンクロし音と映像が生々しい感覚で体の中に入ってきて、すっかりゴンドリーワールドに浸りきることができた。考えることなく、感覚で味わうインスタレーションだ。

 さらに第2部では、映画の中で実際に使われた小道具や衣装、秘蔵のドローイングなども見られるのだが、これはファンにとって垂涎ものであることは言うまでもないだろう。ゴンドリー監督の映画において小道具はひとつのアート作品でもある。アイデアと遊び心に溢れた小道具たちが、華麗な映像マジックによって夢のような輝きを放つ。その実物を目の前に、ゴンドリー監督の頭の中を少しだけ覗き見したような気になったのだが、これは私がずっとやってみたかったこと。あんな素敵な映像を作る人の頭の中は一体どうなっているの?私が感じた彼の世界はとてもお茶目で、エネルギーに満ちていて、繊細で、優しくて…なんとも複雑なパーソナリティ。この展覧会を通してミシェル・ゴンドリーというクリエーターにますます興味がわいてきた。

 

(文・河村由美)

 

NTM

 

『ミシェル・ゴンドリーの世界一周』

2014年9月27日(土)~2015年1月4日(日)

会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館

時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)

休館日:月曜(10月13日、11月3日、11月24日は開館)、10月14日、11月4日、11月25日、12月28日~2015年1月1日

料金:一般1,000円 大学生・65歳以上800円 中高生600円 パスポートチケット:一般2,400円 大学生・65歳以上 1,900円 中高生1,400円

※小学生以下無料

※『ホームムービー・ファクトリー』は入場無料

※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添者2名まで)は無料

http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/michelgondry.html

2014/09/27

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movie

#31『マルタのことづけ』

 母親にとって、幼い子供たちを遺して死にゆくというのがどれほど辛いことか。そして母を失う恐怖におびえながら“その時”を待たなければならない子供たちは…。

 メキシコの眩しい陽光の中、ユーモアとペーソスを織り交ぜながら綴られる家族の物語。

 

(文・河村由美)

 

 メキシコ第二の都市・グアダラハラ。4人の子を持つシングルマザーのマルタと天涯孤独の若い女性クラウディアは、病院のベッドが隣同士になり知り合った。マルタは自宅での食事にクラウディアを招くのだが、一人暮らしのクラウディアはこれまでに経験したことのない賑やかな食事風景に驚き、何より個性的な子供たちに圧倒されていた。

 長女のアレハンドラはライターの仕事をしながら母の介護と兄弟の面倒を一手に引き受けるしっかり者。次女・ウェンディはフリーター。思ったことはすぐに口に出すタイプでいつも不満ばかり言っているのだがどこか憎めない。思春期真っ只中の三女・マリアナは、おしゃれと男の子のことで頭がいっぱい。そして唯一の男子で、姉たちにいじられながらも健気に洗濯係をこなすアルマンド。はじめは、母の連れてきた新しい友人に怪訝な視線を向けていた子供たちも、すぐにクラウディアを受け入れ、まるで家族のように普通に家の用事を頼む始末…図々しいのか、人懐こいのか。クラウディアは戸惑いつつも彼女たちに協力するうちに、いつしか孤独な心が癒えてゆくのを感じていた。

 マルタは不治の病に冒されながらも、明るく前向きに、そして子供たちに少しでも“何か”を残そうと懸命に生きている。家族ではないクラウディアにだけは「死ぬのが怖くなることがある」と本心を打ち明けるが、子供たちの前では気丈な母親だ。子供たちも、一見普通に生活しているように感じる。しかし、実のところは不安でいっぱいの心は今にも折れそうになっていて、次女のウェンディは自傷癖に悩んでいる。それに気づくのも、クラウディアだ。家族だから何でも話せるということばかりではなく、家族だからこそ言えないこともある。それを打ち明けられるクラウディアという存在が、この家族にとっても癒しとなってゆくのだ。

 実はこの物語は、クラウディア・サント=リュス監督の体験に基づいている。両親の離婚後、母親との生活に息苦しさを覚えて17歳で家を出たというリュス監督。当時は「世界について興味を持てなかった」というほど自分の殻に閉じこもっていたそうだ。しかし、マルタのモデルとなる女性とその家族に出会い、約2年間共に過ごしたことで、彼女は再び世界との接点を見出すことができたという。

 さらに、次女・ウェンディを演じたのは本人である。4人の中でもひときわ個性的なこの役はぜひ本人に演じてもらいたいと願う一方で、「またあの状況にさらすのは怖かった」とも語る監督。しかし、彼女は見事にやり遂げたし、完成した映画を観て「DVDのボタンを押せば、これから何度でも母に会える。なんて幸運なの」と話したという。(プロダクションノートより)

 人生を変えた特別な出会いと、別れ。その記憶を、映画を通して私たちも共感させていただこう。クラウディアは、本物の家族にはなれないけれど、かけがえのない関係を築くことで本物の人生を取り戻した。一人で部屋に閉じこもっていても決して得られない現実感。今やパソコンでいつでも誰とでも繋がることができる時代だが、それだけではやはり現実感が希薄になってゆく。私自身が一人暮らしの中で身につまされていることだ。 

 リュス監督の演出はとてもさり気なく自然で、なんでもない会話や日々の雑事などありふれた日常を丁寧に描き出している。マルタの死を目前に、彼女もそして家族やクラウディアも、そんなありふれた日常をどれほど慈しんでいるかが伝わってくる。死は誰にでも訪れるもの。“その時”が来るまで、自分はどう生きたらいいのか。どう生きたいのか。

 何か特別スゴイことをするのではなくただ日々を丁寧に生きる…その中に答えが見つかるのかもしれないと、そんな風に感じた。マルタはたしかに皆の胸に大切なメッセージを残したのだ。

 

NTM

 

シネスイッチ銀座ほか絶賛公開中!

http://www.bitters.co.jp/kotoduke/

 

監督・脚本:クラウディア・サント=リュス

出演:ヒメナ・アヤラ リサ・オーウェン ソニア・フランコ ウェンディ・ギジェン 他

配給:ビターズ・エンド

 

2013/メキシコ/91

2014/10/25

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