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#3『李藝 最初の朝鮮通信使』

©2013李藝啓蒙推進実行委員会
©2013李藝啓蒙推進実行委員会

 私は、韓流ブームには全く乗れなかったクチだ。だから、このドキュメンタリー作品でナビゲーターを務めたユン・テヨンのこともあまり知らなかったのだが(ファンの方、ごめんなさい!)、ペ・ヨンジュンとの共演などで人気を博した俳優で、父親はあのサムソングループの副会長だそうだ。

 そんな彼が辿ったのは、約600年前に日韓の懸け橋となった朝鮮通信使・李藝(りげい、韓国語読みではイ・イェ)の足跡。韓国・釜山を出発し、朝鮮通信使の記録が残る瀬戸内の街から京都へと向かう。

 李藝は、73年の生涯で実に40回以上来日している。600年も前のことだから、海の旅には相当の危険が待ち受けていたそうだ。にもかかわらず、彼はどうしてそこまで日本という国に興味を持ったのか?

 実は、李藝は幼い頃に母親を倭寇に拉致されている。だから最初は、日本で母親を探して故郷に連れ帰りたいという想い、そして日本人に対する憎しみの気持ちも強かっただろう。だが、李藝が選んだのは日朝友好の道だった。

 この作品は、今、領土問題や歴史認識の違いなど様々な問題を抱える日韓関係に一石を投じるものである。どうしてここまで国民感情に差が出てしまったのか?

 私がまず感じたのは、一方的な思い込み(教育の違いも含めて)を双方の立場から見直し、その上で、実際に“人”と触れ合うことが何より大切だということ。「話せば分かるさ」の言葉のとおり、会ってみたらイメージとは違ったということもあるはずだ。

 作品では、駐日韓国大使館の招待で日本の大学生たちが韓国を旅する様子も収められている。彼らは、SNSリポーターとして感じたままのことを発信するのだが、日本では教えられない日韓の歴史(例えば、日本では英雄視される秀吉の朝鮮出兵が韓国ではどのように捉えられているか、等)を知って驚きを隠せないようだった。

 さらに、韓国の学生たちとの討論では、互いの主張をぶつけ合いながらも、面と向かって話をすることで心がぐっと近くなった様子が見てとれる。

 ユン・テヨンが瀬戸内で出会った、朝鮮通信使と地元の人々との交流もそうだ。記録には、心づくしのもてなし料理の献立が残っている。美味しいものを一緒に食べて、話をする。李藝も、そんな交流の中で日本に対する気持ちが少しずつ変化したのかもしれない。

 相手を敬い、知り、触れ合うことの大切さ。今作がその入口となって、日韓の未来が少しでも明るくなればいいと思う。

 

NTM 

(文 河村由美)

監督:乾弘明 

ナビゲーター:ユン・テヨン 

ナレーター:小宮悦子

企画・配給:平成プロジェクト  

2013年/日本・韓国/71分)

 

http://rigei.pro/

 

2013/05/18

cinema project

#4 cinema project『GUCCI CINEMA VISIONARIES』

Courtesy of Cineteca di Bologna_Reporters Associati フェデリコ・フェリーニ監督『甘い生活』(1960)
Courtesy of Cineteca di Bologna_Reporters Associati フェデリコ・フェリーニ監督『甘い生活』(1960)

 GUCCIで映画が観られることをご存じだろうか?

えっ?」と思う方が多いだろうが、以前から気になっていたこの“映画館”に、先日、初潜入してきた。

 普段は縁のない高級ブランドだけに少しドキドキしながらグッチ銀座に入り、エレベーターで6Fへ。スーツ姿の男性が丁寧に迎えてくれた先には、大きめのゆったりとしたソファが10個置かれたラグジュアリーな空間が。

 ホームシアターでも持っていれば別だが、なかなかこんな贅沢な環境で映画を観ることはできない。上映される作品は、GUCCIがフィルムの修復に関わった旧き良き名作たちだ。

 現在の映画業界は急速にデジタル化がすすみ、撮影も上映もデジタル、長期保存も容易な作品が増えたが、少し前まではフィルムが主体だった。フィルム作品のアナログな風合いはとても魅力的なのだが、劣化が激しく10年を待たずしてカビや腐敗などの被害に合うこともある。

 名作を後世に遺すためには、修復作業が必要不可欠、かつ急務なのだ。

 こういった現状を受けて、1990年、映画監督のマーティン・スコセッシ氏は歴史的な映画の保護と保存のために「THE FILM FOUNDATION」を設立した。

 主なスタジオやアーカイブスと提携して、これまでに560本以上のフィルム作品を救った実績を持ち、スコセッシ氏の他にも著名な映画監督や映画関係者が賛同している。そして、2006年以降はGUCCIも1年に1本ほどのペースで修復作業に協力しているのだ。

 GUCCIによるこれまでのコレクションは、フェデリコ・フェリーニ監督『甘い生活』(1960年)、ルキノ・ヴィスコンティ監督『夏の嵐』(1954年)『山猫』(1963年)、セルジオ・レオーネ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984年)等、計8作品。いずれも映画史に燦然と輝く名作ばかりだ。

 その中で、先日私が鑑賞したのはフランチェスコ・ロージ監督『黒い砂漠』*(1972年)。実際に起こった事件を元にイタリア社会の暗部に鋭く切り込んだ社会派スリラーの傑作で、カンヌ国際映画祭グランプリを受賞している。

 私は初めてだったのだが、今観てもこの作品が放つエネルギーに圧倒されたし、当時の社会的意義の大きさも想像がつく。最近は若い世代からも再評価されているそうだが、何よりこの名作を美しい映像で観られたことは感無量だった。

 因みにオリジナルのフィルムにはカビによる乳化剤の劣化があり、黄色い斑点ができてしまっていたのだとか。これを取り除く作業には、途方もない労力が費やされたそうだ。

GUCCI CINEMA VISIONARIES」は予約さえすれば誰でも入ることができ、コレクション作品を定期的に入れ替えて上映している。保護・保存するだけでなく、より多くの人が作品を観ることにこそ意義があると思う。

 この機会に、美しく蘇った名作に触れてみてはいかが?

 

NTM

(文・河村由美)

 

https://gucci-cinemaroom.com/

 

2013/06/01