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#26 『マダム・イン・ニューヨーク』

© Eros International Ltd
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 先日の東京都議会定例会で塩村文夏議員に対して浴びせられた女性蔑視のヤジには心底うんざりした。「早く結婚しろ」「産めないのかよ」・・どうして公共の場でそんな発言ができるんだろう?と思いつつ、でも日常生活の中では結構普通に聞くセリフなんだよなぁとも。おそらくヤジを飛ばした人たちも、そんなに悪いこと言ったつもりもなかったんでしょ?そういう時代錯誤な感覚を持った方に是非観てもらいたいのがこの『マダム・イン・ニューヨーク』だ。

 ヒロインのシャシは、ビジネスマンの夫と2人の子供を持つごく普通の専業主婦。インドの伝統的なサリーを美しく着こなし、家事は万能で、時々“ラドゥ”というお菓子を手作りして近所で売っている。幸せなはずの人生だが、シャシの心にはいつも寂しさがつきまとっていた。なぜなら、シャシにとっては家族が全てなのに、その家族から自分がないがしろにされている気がするからだ。どれだけ完璧に家事をこなしても、家族にとっては当たり前のことでしかない。誰からも感謝されないどころか、夫には「ラドゥを作るのなんか別に重要じゃないだろ?」なんて心ないことを言われてしまう。豆の粉から作る一口サイズの丸いお菓子、これを美味しく作るのがどれだけ大変かも知らないくせに!さらに娘には「家族の中でママだけ英語が喋れない」とバカにされるのだ。

 人知れず傷ついていたシャシ。そんな彼女が、ニューヨークに暮らす姪の結婚式のために一人で旅立つことになったから、さぁ大変。なにしろ英語ができないものだから、行く先々で怖い思いや嫌な思いをするハメに。やっとニューヨークに辿り着いたのだが、コーヒーを買うのにも、意地悪な店員に次々に英語で質問を浴びせられて結局買えずに店を出てしまった。劣等感と自己嫌悪が最高潮に到達したシャシは、ある決意をする。英語教室に通うことにしたのだ。

 その日から、シャシの毎日が一変した。学ぶことの楽しさや新しい仲間たちと過ごす時間に夢中になっていったのだ。今まで知らなかった世界の扉を開け、サリーの上にトレンチコートを羽織って颯爽とニューヨークを歩くシャシの姿は凛として美しい。そしてそんなシャシに恋心を寄せる男性まで現れて・・。

 できることが増え、女性としての存在感を確かめられたことが、シャシの自信につながった。そして自信を持つことで、より一層彼女の美しさが輝き出したのだ。自信と尊厳、人間にとってとても大切なこと。自分の中で感じるしかないけれど、自分だけでは創り上げられないものだったりもする。

 きっと、家族にとってもシャシは大切な存在だったはずだ。ただ日常生活の中であらためて考える機会がなかっただけかもしれない。でも、もしかしたら都議会でヤジを飛ばした議員のように無自覚なまま、潜在的に“母親”という役割を下に見ていたのではないだろうか。ママがどれだけ傷ついているかなんて、想像すらしなかったのだろう。だってママなんだから、と。日本にもシャシと同じように傷ついているママたちはたくさんいると思う。これがデビュー作となるガウリ・シンデー監督は、自身の母親をモデルにこの物語を作ったそうだ。

「世の中、才能ある女性は多いけれど自信を持っている人は少ない。私の母もそうだった」と監督は話す(プロダクションノートより抜粋)。これは、家庭の中でも社会の中でも、同じように言えることかもしれない。どんなに社会的に成功していても、女性は男性より劣っているという風潮がまだ根底にあるように感じる。男性だけでなく、女性の側にもこういった意識はあるかもしれない。でも、少しずつ変わってゆけるのではないかという期待に胸が躍るような気持ちにさせてくれたのが、この作品だ。

 果たして、遅れてニューヨークに到着した家族の目には“新しい”シャシはどんな風に映るのだろう?大切なことに気づくだろうか?この先は、スクリーンで・・・。

 

(文・河村由美)

 

NTM

 

 6月28日(土)〜

シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

 

監督・脚本:ガウリ・シンデー

出演:シュリデヴィ アディル・フセイン メーディ・ネブー 他

配給:彩プロ

2012/インド/134

http://madame.ayapro.ne.jp/

2014/06/28

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#27 『ローマの教室で ~我らの佳き日々~』

©2011 BiancaFilm
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 赤と青が1本になった赤青鉛筆。最後に使ったのは中学生くらいだろうか?どうしても赤の減りが早くて、アンバランスな状態で使いかけのものがいくつも机の中に入っていたのを思い出す。この映画の原題は『赤と青』。主人公となる教師たちにとっての赤青鉛筆、青は合格、赤は落第を指すものだ。しかし、そう簡単に「赤」と「青」を区別できるのだろうか?

 

(文・河村由美)

 

 舞台はイタリア・ローマの公立高校。進学校でもなければ、特に不良が多い学校というわけでもないが、生徒たちの間には「どうせ自分たちなんて勉強しても無駄」というような諦めムードが漂っている。

 この学校で働く3人の教師。校長のジュリアーナは、常に冷静な女性で仕事とプライベートはきっちり分けるという信念を持って働いてきた。若き熱血漢ジョヴァンニは、国語補助教員として赴任したばかりで、生徒にやる気を起こさせようと躍起になっている。そして、長年の教師生活の中で失望を繰り返し、すっかり情熱を失ってしまった美術教師のフィオリート。物語はジョヴァンニが赴任してきた朝からはじまり、やる気のない生徒たちに熱弁をふるう姿に「これはお決まりの学園ドラマかな?」と思ったが、どうやらその予想は違っていたようだ。

 生徒たちの前でカッコ良く熱弁をふるったジョヴァンニは、思わぬことで足元をすくわれる。ある女子生徒から何気なく借りた青ペンをなくしてしまったのだ。なくしたことさえ気づいていなかったジョヴァンニ。「返して欲しい」と訴える女子生徒に、似た物を買って返そうとするが「私のペンでないと…」とあえなく拒否されてしまう。そこで一言「ごめん」と言えばいいのに、その言葉は出ずなんとかごまかそうという姿勢がありありだ。教師である前に人として少し不誠実ではないだろうか?しかし一方で、そこが人間らしくてチャーミングにも思えるのだが。

 老教師フィオリートの不誠実ぶりはもっと深刻だ。授業中にタバコをふかして保護者からクレームがつけられたにもかかわらずやめようともしないし、生徒たちを「みんな頭が空っぽ」だと公然と言ってのける。プライベートでは、2週間に一度コールガールを自宅に呼ぶことを楽しみとする孤独な老人だ。そんなフィオリートのもとに、ある日かつての教え子から電話がかかってくる。美術と詩を愛し、哲学的な言葉を散りばめた彼の授業が大好きだったという教え子。思いがけず昔の自分と対峙することになったフィオリートは…。

 そして、ジュリアーナもまた一人の生徒との出会いで変わろうとしていた。予算の少ない小さな公立高校では、トイレットペーパーを代えるのも校長がやっているのだが、ある日校内を見回っていたところ教室の片隅で寝泊まりしていた生徒を見つけてしまったのだ。聞けば、母親が家を出たまま連絡がとれず鍵も持っていないという。しかもひどい咳をしている。まずは病院に連れて行き入院させることにしたのだが、孤独から逃れたくて救いを求めるようなその生徒の眼差しは「決して公私混同はしない」という彼女の心を揺さぶるものだった。

 この作品は、ジュゼッペ・ピッチョーニ監督が、マルコ・ロドリのエッセイ「赤と青」に書かれたいくつかのエピソードを盛り込んで脚本にしたものだ。マルコ・ロドリは30年以上も高校で教鞭をとってきた人物で、エッセイには枠に捕らわれない柔軟な教育方針と活き活きとした生徒たちの姿が描かれている。マルコ・ロドリは詩人でもあるのだが、この映画の中でもジョヴァンニはジャコモ・レオパルディやエミリー・ディキンソンらの詩を授業で教え、職員室では若きジョヴァンニと老教師フィオリートが、ジョズエ・カルドゥッチが幼くして亡くなった息子にささげた詩「遥かな嘆き」について言葉をたたかわせる場面も登場する。抜け殻のようだったフィオリートが、この詩については「解釈は不要なんだ。リズムに集中すればいい!」などと大きな身ぶり手ぶりで語る姿が微笑ましいシーン。さすが詩を愛する国民イタリア人だ。そしてイタリア映画らしく、洗練されたユーモアとどこかキュートな要素が盛り込まれていて好感が持てる。

 さて、進級できるか否かの時期にさしかかった4年F組。ジョヴァンニの頭を悩ませるのは、素行不良の女子生徒アンジェラだ。いつも派手な服を着て、授業を抜け出したかと思えば外で待っていた年上の男性の車に乗ってどこかに消えてしまう。なんとか勉強に興味を持たせようとしても反発するばかり。そんなある日、アンジェラから「母が亡くなったの」と告げられたジョヴァンニは彼女に同情するのだが…。はたして彼女は「赤」か「青」か。

 この物語に描かれているのは、教師と生徒。しかし、教師である前に、生徒である前に、ひとりの人間としてどうあるかが大切なのではと問いかける。毎日同じ教室の風景など存在せず、誰かと関わることで人は常に変化している。そして他人を認め自分が変わる勇気、「赤」か「青」かよりも何色にでもなれる自由こそが大切なのだということ。ジョヴァンニはアンジェラによってそのことを痛切に教えられる。最初の熱弁と、ラストシーンのジョヴァンニの振る舞いを見比べてみれば、未来はカラフルであると信じたくなる。

 

NTM

 

823日(土)岩波ホールほか全国順次公開

 

監督・脚本:ジュゼッペ・ピッチョーニ

出演:マルゲリータ・ブイ

   リッカルド・スカマルチョ

   ロベルト・エルリツカ

配給:クレストインターナショナル

 

2012/イタリア//101

2014/07/19

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