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#24 『WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~』

©「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」製作委員会
©「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」製作委員会

『ウォーターボーイズ』(01)では男子のシンクロ、『スウィングガールズ』(04)では女子高生のJAZZ、『ハッピーフライト』(08)では航空業界、『ロボジー』(12)では知られざるロボット開発現場を、ユーモアたっぷりに描いてきた矢口史靖監督が次に選んだ題材 ― それは林業。

 都会育ちでチャランポランな性格の勇気(染谷翔太)は、大学受験に失敗し彼女にもフラれ、散々な状態で卒業式を迎える。半ばヤケになった勇気の目に留まったのが、とびきりの美女が表紙の「林業研修プログラム」のチラシだ。美女会いたさにローカル線を乗り継いでやってきたのは、ケータイも通じない山の中。そこで、勇気の1年間にわたる林業研修がはじまった。

 虫やら蛇やら鹿やら、これまで体験したことのない自然いっぱいの環境の中、チェーンソーの扱い方や下草の刈り方など林業のイロハを教わる勇気。はじめは全くヤル気がなかったのだが、ワイルドすぎる先輩ヨキ(伊藤英明)や例の美女・直紀(長澤まさみ)、そして個性豊かで魅力的な村人たちと暮らし働くうちに、次第にたくましく成長してゆく。

 これまでオリジナルの脚本で映画制作をしてきた矢口監督が、初めていわゆる“原作モノ”に取り組んだ作品で、三浦しおんさんによる人気小説「神去なあなあ日常」を映画化したものだ。

 とはいえ脚本にかけた取材時間はオリジナルの場合にひけをとらず、9か月間で計7回、ロケ地にもなった三重県の山中に取材旅行を敢行したそうだ。そこで監督自身が経験した、都会の日常ではありえない出来事がエピソードとしてたっぷり詰め込まれている。

 例えば、勇気が下半身を無数のヒルに吸われるシーン。これは、監督が股間をマダニに刺されて大変な思いをしたことから生まれたそうで、シャレにならないくらいに危険な状態だったのを「せっかくだからネタにしてしまおう!」と盛り込んだものだという。転んでもタダでは起きない“クリエイター魂”にあふれた話に、涙が出るくらい笑ってしまった。

 面白ネタはもちろんだが、徹底的なリサーチによる的確な描写が矢口監督の真骨頂。今作ではかなり真面目に林業の現実に向き合った描写もあり、衰退する日本の林業復興にひと役買うような映画になるのでは、と期待している。

 昭和55年には約15万人いた林業従事者は、平成22年の段階で約4万7000人にまで減少している。高齢化も深刻な問題だ。

 平均所得は全産業に比べて年間約150万円安く、日給制が約8割、労働形態が季節や天候に左右されやすいという点も、林業離れを加速させている要因と思われる。(林野庁ホームページ参照)

 日本の国土は3分の2が森林である。自然環境を守りつつ、産業として活用する方法を多角的に考えなければならない。日本では、戦後、大量の木が伐採され、そして新たに植えられた。しかし手入れが行き届かないままになっているものも多いという。このまま人手不足が続いたら、豊富な資源が無駄になってしまうこともありうるのだ。

 そんな状況を改善しようと、林野庁では平成15年度から「緑の雇用」事業を実施している。新しい労働力確保を目指すもので、実際、この事業の導入によって新規労働者が増え高齢化率は下がってきている。未経験者を対象に林業のノウハウを体系的に学ぶことができる研修プログラムで、複数年にわたるカリキュラムは5年後、10年後を見据えたものになっている。これは、まさに映画の中で勇気が経験したような研修だ。

 林業が他の産業と決定的に違うのは、時間感覚だと思う。祖父の代に植えられた木が、孫の代でやっと商品になる…そんなことを語るヨキの台詞が印象的だった。林業にたずさわる人々はそういう長いスパンでものを考えているのだ。

 立派な木材にするためには、間伐など日々の手入れも肝心なこと。そして、自然に抗わずその恵みに感謝する心が、いい仕事に繋がる。そんな風に生きる人々の姿を、この映画はほのぼのとした笑いを散りばめながら描き出してゆくのだ。 

 勇気は林業を通して木や森を愛するようになる。そして、労働の価値、ひいては自分自身の価値をも見出してゆく。変化する彼の姿に、未来へのメッセージを感じ取った。

 

(文・河村由美)

 

NTM

 

2014510日(土) 全国ロードショー

監督:矢口史靖

出演:染谷翔太 長澤まさみ 伊藤英明 優香 西田尚美 光石研 柄本明 ほか

配給:東宝

2014/日本/116

2014/05/17

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#25 『あいときぼうのまち』

©「あいときぼうのまち」映画製作プロジェクト
©「あいときぼうのまち」映画製作プロジェクト

 原子力をめぐって、いま日本は大事な転換期を迎えている。福島第一原発事故をどう解決してゆくのか、運転停止中の原発を再稼働させるべきなのか、そして海外に原発を売ることの是非…あやふやな情報が錯綜し何ひとつ国民のコンセンサスを得ぬまま、この国の行く末が決められようとしている現状。しかし、それは今にはじまったことではなく、過去から連綿と繰り返されてきたことなのだ ー この映画にはそんな強烈なメッセージが込められている。

 監督は福島県出身で今作がデビュー作となる菅乃廣氏。

 物語は原子力に翻弄された4世代にわたる家族それぞれの人生を描く群像劇だ。時空を超えていくつもの物語が交錯し、やがて祈りを込めたラストシーンへと結実する。

 1945年、福島県石川町では原子力爆弾を製造するためのウラン採掘が行われていた。15歳の英雄は学徒動員で採掘場に駆り出されていたが、自分が何を探しているのかも知らされないままツルハシを振っていたのだ。ある日、陸軍技術将校の加藤がその目的をこっそりと教えてくれる。加藤は妻子ある身でありながら、戦争未亡人となった英雄の母と不倫関係にあった。

 1966年、福島県双葉町は原発建設に沸いていた。多くの住民は原発がもたらす経済的な発展を夢見る中、英雄は原発の危険性を危惧して建設に反対し続け、遂に最後の1人となってしまった。英雄は村八分にされ、16歳の娘・愛子もアルバイト先を解雇されてしまう。一方で、愛子の初恋の相手・健次が応募した標語「原子力 未来の 明るいエネルギー」という言葉が、町のアーケードに掲げられて…。

 2011年、愛子は息子夫婦と共に福島県南相馬市に暮らしていた。受験を控えた孫娘・怜を可愛がる、明るくて優しいおばあちゃんだ。ある日、怜にFacebookの使い方を教えてもらった愛子は、こっそり健次に連絡をとり、再会した2人は度々密会を重ねるようになる。

 そして、運命の3月11日ー。

 津波で祖母を亡くした怜は、避難先の東京で自暴自棄な生活を送っていた。ある日、怜は道端で義援金募金詐欺をする青年と出逢い、翌日から彼の隣で募金を呼びかけるようになる。しかし怜の心は固く閉ざされたままだった。果たして彼女が再び愛と希望を見いだすことはあるのだろうか?

 時系列にそってストーリーをなぞるのではなく、過去と未来がごちゃまぜに(しかし計算されて)描かれてゆくことで、まるでパズルのように最後には全てのピースがしっくり収まる見事な脚本だった。原子力という大きなテーマとひとつの家族に起こる出来事をドラマティックに絡み合わせて、フィクションでしか表現できない”福島”を描き出した。そして、菅乃監督はストイックな演出でこのテーマに向き合うことへの固い決意を示している。

 この映画を製作するのには様々な壁があったという。ドキュメンタリーでなくフィクションの中で「東京電力」などの固有名詞を使うことへの反発や、資金集めが難航したこと、さらにはキャスティングにも苦労した。原発問題を扱うことに躊躇して出演を断られることも多かったというのだ。しかし逆に言えば、この映画に出演しているのは、製作陣の心意気に賛同し気概を持って臨んだ俳優さんたちだということだ。魂のこもった演技には、ぜひ期待してもらいたい。

 重要なフレーズとして登場する「原子力 明るい未来の エネルギー」という標語。本作の中では、これを書いた健次はその後東電に勤めて定年を迎えたという設定だが、現実は違う。25年前に、当時小学6年生で実際にこれを書いた人物は、福島第一原発から半径4kmの町中心部に自宅があったため家族で愛知県に避難したそうだ。東電社員ではなかったものの、原発の安全神話を疑うことなく原発と共に暮らしていた。しかし、震災後は考え方が変わり「明るい」を「破滅」に訂正したいとの意向を示したという。国が安全だと言うんだからと、安易に信じきってしまったことへの後悔はきっと大きかったことだろう。もしかしたら、今でも商店街の入り口にこの標語があることに心を痛めているのかもしれないと思うと胸が苦しくなる。

「国が安全だと言うんだから」「お国のためだから」、本作の中に何度も出てくる言葉。福島第一原発事故でその安全神話が崩れたことは明らかなのに、時間が経って、また私たちは国の言うことを鵜呑みにしはじめてはいないだろうか?うやむやに、誤魔化されてはいないだろうか?今こそ、真実に向き合うことのできる成熟した社会を作る時なのではないか?今起こっていることは、家族の歴史と同じように過去から受け継がれてここにあるものだ。そして、福島はどこか遠い場所ではなく東京からだって陸続きですぐに行ける場所なのだ。本作が発信するメッセージには、多くの日本人に気づいてほしい、立ち上がってほしいという切実な想いが込められている。今は見えない「愛」と「希望」が未来にはきっと見えていますようにとの願いを込めて。

 

(文・河村由美)

 

NTM

 

2014年6月21日(土)より テアトル新宿、テアトル梅田ほか全国順次公開

監督:菅乃廣

脚本:井上淳一

出演:夏樹陽子 勝野洋 千葉見紅 黒田耕平 雑賀克郎 安藤麻吹 ほか

配給:太秦

2013年/日本/126分

 

http://www.u-picc.com/aitokibou/

 

2014/06/07

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