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#22 『世界の果ての通学路』

© 2013 - Winds – Ymagis – Herodiade
© 2013 - Winds – Ymagis – Herodiade

 チョキで勝ったら「ち・よ・こ・れ・い・と!」

 そんな風に友達と遊びながら下校した小学校の通学路は、ほんの10分くらいの道のりだった。大人になった今なら5分もかからないだろう。そういう場所にあった私の実家、この映画に登場する子供たちにとっては夢のような環境だと思う。

 ケニア、アルゼンチン、モロッコ、インド。それぞれの国で子供たちの通学の様子を追ったドキュメンタリー映画。ただの通学風景?と思うなかれ。彼らはみな、何時間もかけて歩いたり、馬に乗ったり、車いすを押したりしながら学校に通っていて、その道のりには思いもよらないドラマや冒険が待っている。

 例えば、15kmのサバンナを歩いて通うケニアの兄妹。野生動物、特に象には気を付けなければいけない。運が悪ければ命を落とすこともあるからだ。「象に追いかけられたら、とにかく逃げろ」というのが親の教えで、実際、とんでもないすばしっこさで逃げる兄妹の姿をカメラはとらえている。不安でたまらない妹を兄がたくましく励ます姿が微笑ましくもあるが、命がけの通学とは驚きだ。家は貧しく、家族の中で学校教育を受けるのは、彼らの世代が初めて。家族も通学に危険が伴うことを承知していて、出かける前には必ずお祈りをするのだが、それでも子供たちには教育を受けさせたいと願っている。子供たちにより良い未来を手に入れて欲しいからだ。その想いに胸が熱くなるし、何より子供たち自身が強い意志を持っていて、勉強するためにくる日もくる日もその長い道のりを通い続ける姿に、はっとさせられた。

 そうだ、世界には勉強したくてもできない子供たちがまだまだたくさんいるのだ。

 

学びたいのはなぜ?

 このドキュメンタリーを手がけたのはパスカル・プリッソン監督をはじめとするフランスの制作クルー。監督は、ケニアの先住民を12年間も追いかけたドキュメンタリー作品など、秘境の地や極限の自然の中で生きる人間を撮り続けてきた人物である。企画の発端は、監督がケニアのマガジ湖近くである映画のロケハンをしている時に、夜明け前に家を出て2時間も走って学校に向かっているというマサイ族の少年たちと出会ったことだ。同じように走っている少年たちを見かけたことはあったものの、まさか通学の途中だとは思いもよらず、大変驚くと同時に感動したのだという。そして、世界中の“何時間もかけて通学する子供たち”を探し出し、彼らに密着することにしたのだ。

 しかし、撮影はなかなか大変だったようである。子供たちの自然な様子を捉えるためには、時間も労力もかかった。先述のケニアの兄妹の場合は、足が速すぎてクルーがついていけない、というような珍騒動(?)もあったそうだ。また、ある国では国家が口を出してきて半ば“ヤラセ”状態となってしまったために、カットせざるを得なかったエピソードもあるという。

 こうして苦労の末に完成した今作は、フランスで大ヒットを記録した。フランスでは、小学生の子供は親かベビーシッターが送り迎えするのが当たり前で、子供たちだけで通学するということが、まず驚きなのだとか。私たち日本人からするといささか過保護のようにも思えるが、象に遭遇するようなことはないにしろ先進国ならではの危険から子供たちを守るためなのだろう。さらにここ数年は、“学校週4日制”が施行されたかと思ったら、数年で廃止になったりと、学校制度の混乱もみられるという。そんな中で、今作に登場する子供たちの“勉強したい”というピュアな衝動がフランス人の目には新鮮に映り、共感や感動を呼んだのかもしれない。

 私たち日本人にとってもきっと同じだ。何のために勉強するのか。受験対策?良い学校に進学して、良い企業に就職するため?私の世代も含めてだが、学ぶことの本質が分かりづらくなっている現実があるように思う。私自身、受験のために勉強するのが当たり前だと思っていたし、目標をひとつひとつクリアすることで次の目標が生まれてくるということもあるけれど、もう少し子供たちが学ぶことを楽しめて夢が持てる社会であったらいいと思うのだ。そして、いじめやモンスターペアレンツなど教育現場で起きている理不尽な問題。私たち日本人は、今一度、学校教育の原点に立ち返らなければならない時代なのではないだろうか。

 長い長い道のりを経てやっと学校にたどり着いた子供たち。最後に、彼らは「なぜそうまでして学びたいのか?」を語る。喜びと生命力に溢れたその笑顔や言葉からは、夢を持つことがいかに大切かを思い知らされる。キラキラと輝く彼らの瞳に、学ぶことの原点を見た気がした。

 

(文・河村由美)

 

NTM

 

4月12日より シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

監督:パスカル・プリッソン

配給:キノフィルムズ

2012/フランス/77

 

 

http://www.sekai-tsugakuro.com/

2014/04/05

コメント: 2
  • #2

    NTM (日曜日, 06 4月 2014 11:56)

    ランさん、ありがとうございます!

  • #1

    ラン (日曜日, 06 4月 2014 10:21)

    一周年おめでとう。本当によく頑張りました。これからも頑張ってください。

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#23 『さよならケーキとふしぎなランプ』

©武蔵野映画社 /2013「さよならケーキとふしぎなランプ」
©武蔵野映画社 /2013「さよならケーキとふしぎなランプ」

「住んでみたい街はどこですか?」アンケートで常に上位を占める、吉祥寺。この映画は、街に生きる人々の暮らしや想いに寄り添うようにして作られた、吉祥寺発の作品だ。

 

(文・河村由美)

 

 主人公このぎし(堂島孝平)は、ケーキ作りが苦手なcafé店主。そこへ、父親(梅垣義明)と喧嘩して実家のケーキ店を飛び出したパティシエの波奈美あき(平田薫)がやって来る。あき手作りの美味しいケーキは話題となり、お店は連日大繁盛。たちまち街の人気店になった。

 実は、このお店には“夜の常連さん”がいる。店の片隅にあるランプに灯りをともしてみんなでお喋りを楽しむのだが、ランプにはふしぎな秘密が隠されていて…。

 あきと父親は仲直りできるのか?このぎしがcaféをはじめた理由とは?そして常連客たちの大切な人とは?ランプが照らす人と人との繋がり、温もりを、丁寧に描き出したファンタジー作品。これが映画初出演となるミュージシャンの堂島孝平さんの演技が素晴らしく、彼が息を吹き込んだ温かくキュートなこのぎしというキャラクターをずっと見ていたい気分になった。

 舞台となるcaféは吉祥寺にある「カフェ フレンズ」の店内を、内装もほぼそのままに使用している。このカフェは“人との繋がり”を大切にするというコンセプトのコミュニティーカフェで、この映画の世界観ともピッタリ合うお店だ。他のロケもほとんど吉祥寺で行われていて、今となっては貴重な改装工事中の駅や、珍しい角度から撮影したプラットホーム、地元商店街の風景などが、ごく自然に織り込まれている。

 実はこの“ごく自然に”というさじ加減が地域発の映画ではなかなか難しいところ。映画で地域おこしを、と考えると、まず有名な観光地などの風景を“無理やり”はめ込んでしまったりするもの。すると、物語の流れが急に分断されたりして作品のクオリティーが落ちてしまうことにもなる。映画というよりも、観光PRビデオのようになってしまうこともしばしば。地元の出資者や協力者の想いを考慮すれば仕方のないことかもしれないが、それで作品が面白くなくなったのでは本末転倒だ。地域らしさを演出することと、作品のクオリティーを両立させるのは思いのほか難しい。

 ではなぜ、この作品に関してはうまくいったのか。キーマンは、この映画のプロデューサーで㈱武蔵野映画社の松江勇武氏だ。「街とスクラムを組んでやっているけど、監督や撮影監督のイメージに合うロケーションを基本的に優先していきます。(ここで撮影して欲しいなど)いろんな要請がくるけど、それは自分のところで止めています」という松江氏の言葉は、多くの経験を積み重ねてきたからこそ言えることだ。

 1976年香川県生まれの松江氏は、大学進学のために上京。その後、父親の逝去をきっかけに、母と2人で吉祥寺ハーモニカ横丁に小さな居酒屋「おふくろ屋台」をオープンし、現在も居酒屋業とプロデューサー業の二足のわらじでがんばっている。身ひとつで商売をはじめた自分を迎え入れ、成長させてくれたこの街に恩返しをしたい、それが彼を駆り立てるモチベーションになっている。「たまたまこの街にきて、この街が好きやなと思ったんです。そして、この街に救われた。感謝せなあかんなというのはずっとありました」

 今作を含め、4本の映画を吉祥寺で制作してきた。映画だけでなく、武蔵野市の消えゆく風景をカメラに収めた記録映像『むさしのアーカイヴ』もてがけているが、こういった活動が徐々に地元に浸透しスムーズに連携がとれるようになったことが功を奏していることは間違いない。今作の撮影でも、ロケ場所の提供はもちろん、資金集めやエキストラなど様々な場面で、地元の方々が協力してくれたそうだ。特に温かい炊き出しを作ってくれたことは、ありがたかったという。地域や人との繋がりが、この映画を支えている。

 さらに、今作は5月末で閉館することが決まっている吉祥寺バウスシアターのクロージング作品でもある。個性的な映画館として地元で愛されてきたバウスシアターがなくなってしまうのは寂しいが、そのタイミングで上映されることには何か因縁めいたものを感じずにはいられない。これまでもバウスシアターを上映の拠点としてきた松江氏は「クロージングまでに映画が完成できたのは幸せなことです」と語る。

 そして、この映画は吉祥寺とミャンマーと繋ぐ架け橋になるかもしれない。近年、目覚ましい経済発展をとげるミャンマーだが、まだまだ娯楽は少なく映画は主要なエンタテインメントのひとつとなっている。上映されるのは国内かハリウッドの映画が主で、日本映画はほとんど流通していないのが現状だ。映画館の中でもお喋りしたり、時にはスクリーンに向かってツッコミを入れたりしながら、自由に映画を楽しむというミャンマーの人々。そこで今作がどんな風に観られるのだろうと想像すると夢が膨らむ。現在は、検閲や現地コーディネーターとの契約など様々な条件をクリアしようとしているところだ。実現すれば、東南アジアのマーケットに日本映画が進出するきっかけになるかもしれない。

 ふしぎなランプが繋ぐ人と人の絆を描いたこの映画。制作の過程でも様々な人を繋いできたが、公開を機にもっと多くの心を繋ぐ作品になるだろう。

 

NTM

 

4月26日より吉祥寺バウスシアター ほか全国順次公開

監督:金井純一

出演:堂島孝平 平田 薫 / ヨネスケ 坂田雅彦 田中世津子(劇団前進座)梅垣義明

配給・宣伝:ブラウニー

2013/日本/

http://www.sayonara-cake.com

2014/04/26

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