#19 山種美術館 特別展『Kawaii日本美術』

art exhibition


伊藤若冲「樹花鳥獣図屏風」18世紀(江戸時代) 静岡県立美術館所蔵
伊藤若冲「樹花鳥獣図屏風」18世紀(江戸時代) 静岡県立美術館所蔵

 私は普段「かわいい」という言葉をなるべく使わないようにしている。というのも、世の中に「かわいい」が氾濫しすぎていてあまりにも安易に使われるので、言葉の使い手としては「もっと多様な表現を」などと不遜にも思ってしまうからだ。だからといって、かわいいモノが嫌いだなんていう可愛げのない女ではないけれど。

 辞書を紐解いてみると「かわいい」の定義は「①小さいもの、弱いものなどに心引かれる気持ちをいだくさま。②物が小さくできていて、愛らしく見えるさま。③無邪気で、憎めない。すれてなく、子供っぽい。④かわいそうだ。ふびんである。(goo辞書)」とあるが、実際にはもっと広義に使われていることは明らかで、ひとつの言葉にこれだけ広いニュアンスを持ち合わせているものは他にないだろう。最近では「“かわいい”って人によって違うよね」という感覚さえ一般的になっている。

 さらには「気持ち悪いけどなんだかかわいい=きもかわ」「ヤバいくらいにかわいい=ヤバかわ」「ゆるくてかわいい=ゆるかわ」などという派生語もすっかり市民権を得ているし、「Kawaii」は海外にも波及し、主に日本のアニメ文化やコスプレの愛好家たちに好んで使われている。多方向に広がりをみせる「かわいい」にはきっと人を惹きつけてやまない奥深い魅力があるに違いない。

 そこに目を付けたユニークな美術展が、今話題となっている。

 東京都渋谷区広尾の山種美術館で開催中の特別展『Kawaii日本美術』。古くは江戸時代から昭和後期のも

柴田是真「墨林筆哥」1877-88(明治10-21) 年 山種美術館蔵
柴田是真「墨林筆哥」1877-88(明治10-21) 年 山種美術館蔵

のまで、「かわいい」というキーワードでセレクトされた100点近くの日本画が並ぶ。

 山種美術館は、山種証券(現・SMBCフレンド証券)の創始者である山崎種二氏(18931983)が個人で集めたコレクションをもとに、19667月、日本画専門の美術館としてオープンし、2009年に現在の場所に移転した。JR恵比寿駅から徒歩で約10分。駒沢通りに面した、こぢんまりとしながらも上品な雰囲気が漂う居心地の良い美術館だ。

 展示は3つのゾーンに分かれている。まずは、「描かれた子ども-人物の中のKawaii-」。

 七福神と無邪気に戯れる唐子(中国の髪型や服装をした子ども)の姿がなんとも愛らしい狩野常信作『七福神図』(江戸時代)にはじまり、地面の蟻にじっと見入る金太郎や、お母さんらしき女性と折り紙に興じる女の子など、天真爛漫な子どもの姿が生き生きと描かれた作品が続く。第二のゾーン「生き物大集合-動物の中のKawaii-」では、犬、うさぎ、猿、鹿、羊、かえる…様々な小さきものたちが勢ぞろい。中でも見ものは、近年人気が高まっている伊藤若冲作『樹花鳥獣図屏風』(24日より展示)。江戸時代に京都の青物問屋に生まれ、40歳を過ぎて本格的に画家デビューしたという異色の画家・若冲らしいカラフルで躍動感溢れる作品の中にはありとあらゆる生き物が描き込まれていて、そのコミカルな表情がなんともかわいらしい。最後の「小さい・ほのぼの・ユーモラス-Kawaiiってなに?-」では、タイトル通りに愛嬌たっぷりの作品が並ぶ中、絵画のみならず女性が外出先で化粧直しをする際に使った小さな紅入れ「紅板」のコレクションなども展示されている。まさに「かわいい」の広がりを感じる展示だった。

 それにしても、キーワードひとつで随分と作品の見方が変わるものだ。難しいことは抜きにして「ね、かわい

奥村土牛「兎」1947(昭和22)年頃 山種美術館蔵
奥村土牛「兎」1947(昭和22)年頃 山種美術館蔵

いでしょ!?」というスタンスが、作品そのものを身近なものにしてくれる。その上で、作品が描かれた背景や作者についてもどんどん興味が広がってゆき、私は思わず図録を購入した。これがまたかわいくて、漫画のような吹き出しつきで絵の登場人物(人物でないこともあるが)が喋ったりするので、より親近感を覚えてしまう。ぜひ外国語バージョンも作って欲しい。「Kawaii」が浸透した今、漫画やアニメだけじゃない日本美術の素晴らしさを伝える良い機会になるのではないだろうか。先述の『樹花鳥獣図屏風』などは、一見大胆な作品だがよく見ると細かい桝目に色を塗り重ねてゆく「桝目書き」という手法で描かれており、緻密で繊細な画風にため息がこぼれることだろう。

 日本美術の父・岡倉天心が創設した「日本美術院」が、彼の意志を継いで横山大観や下村観山らによって再興されてから、今年で100年。これを記念して、今年は日本美術の名品を見られる機会も多くなる。なるべく多くの機会を捉えたいと思う。そんな衝動を突き動かしてくれた特別展『Kawaii日本美術』に感謝したい。

 そして、もしかしたら「かわいい」は心の垣根を低くする、魔法の言葉なんじゃないだろうか。そんな気さえしてきた。よく考えれば「かわいい」という言葉を発する時にしかめっ面の人はいないかも。「Mottainai」「Omotenasi」につづいて「Kawaii」が日本発のポジティブなメッセージとして浸透してくれないかということにまで想いを馳せる美術展だった。

 

(文・河村由美)

 

NTM

 

特別展『Kawaii日本美術

      ―若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで 』

 

■会期:~2014年3月2日(日)

 ※会期中一部展示替えがあります。

(前期:~2月2日、後期:2月4日~3月2日)

■休館日:毎週月曜日

■会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)

■開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)

■入館料:一般1200円、大学・高校生900円、中学生以下無料

 

http://www.yamatane-museum.jp/


2014/02/01

コメント: 1
  • #1

    タケシ (日曜日, 02 2月 2014 11:28)

    美しい。