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#11『そして父になる』

©2013『そして父になる』製作委員会
©2013『そして父になる』製作委員会

 “血”か“時間”か―

 病院で赤ちゃんを取り違えられた家族に突きつけられる、究極の選択。

 一流大学を卒業し大手建設会社に勤める野々宮良多(福山雅治)は、都心の高層マンションに妻のみどり(尾野真千子)と6歳になる息子・慶多と共に暮らしている。絵に描いたような完璧な人生。良多は、厳しい世の中を生きてゆくためにと息子にも英才教育をほどこすが、「慶多は少々優しすぎるところがあるのでは?」と心配もしている。一人息子にかける愛情は人一倍だ。

 そんなある日、突然知らされた事実。6年間育ててきた息子が、実は他人の子だったのだ。

 もうひとつの家族・斎木家は群馬で小さな電気屋を営んでいる。明るく朗らかでちょっとだらしない父親の雄大(リリー・フランキー)、肝っ玉母ちゃんのゆかり(真木よう子)、そして3人の子供たちの賑やかな家族だ。取り違えられた息子・琉晴も自然に囲まれた環境でのびのびと育ってきた。

 全く違う価値観のもと、対照的とも言える2つの家族。

 良多は雄大の粗野な言動が気に食わないし、雄大は良多のクールな態度がひっかかる。一方で、妻たちはすぐに打ち解けて良き相談相手となるが、だからといって「すぐにでも子供を交換しましょう」ということには、もちろんならない。何も知らずに仲良くはしゃぐ子供たちの姿に、親の心は張り裂けそうになる。

 受け継がれてきた“血”か、家族として一緒に過ごした“時間”か。それぞれが悩み苦しむ中で、2つの家族はいったいどんな選択をするのか?

 映画を作るにあたって事前にリサーチしたところ、子供を取り違えられた親のほとんどが“血”を選んで子供を交換するそうだ。「もしも自分だったら?」映画を観ながら、そして観た後も考えずにはいられなかった。

 メガホンをとったのは海外でも人気の高い是枝裕和監督だ。第66回カンヌ国際映画祭では審査員賞を受賞し、盛大なスタンディングオベーションを受けた。審査委員長スティーブン・スピルバーグは「初めて観たときから本作が賞に値するという確信は揺るがなかった」と語っている。

 意外かもしれないが、この作品、けっこうクスッとするシーンがたくさん登場する。笑わせてくれるのはリリー・フランキーさん演じる雄大が多いのだが、キャラクターや台詞に含まれるペーソスとユーモアのさじ加減が絶妙なのである。試写室には、時折笑い声が起こっていた。

 シビアなテーマを扱いながらも、ユーモアを交えて優しさあふれる作品に仕上げた是枝監督の手腕はさすがである。というより、監督の人柄がにじみでているのかもしれない。どんな時にも笑うことを忘れちゃいけないよ。監督からのメッセージのようにも感じた。

「何か一緒に作りましょう」という福山雅治さんからの申し出に応えるかたちで脚本を書いたそうだが、完璧な男のカッコ良さと、内に抱えるダメな部分をチラ見せする好演で、福山さんにとっても次なるステージを感じさせる役になったのではないかと思う。

 ストーリーはもちろんだが、シャープな中に温もりを感じさせる映像しかり、音数少なくシンプルながらも効果的に胸に響くピアノの音色しかり、すべてのバランスが心地良い余韻を残してくれる。

 そして、ラストシーンを迎える時には、観る者もきっと希望の光を見出すことだろう。日々の暮らしに流されて見過ごしがちな、家族や子育ての在り方について考え直すきっかけとなればと願う。

 

NTM

(文・河村由美)

 

監督:是枝裕和

出演:福山雅治 尾野真千子 真木よう子 リリー・フランキー

配給:ギャガ

2013年/日本/121

 

928日(土)新宿ピカデリー他全国ロードショー

 

http://soshitechichininaru.gaga.ne.jp/

2013/09/21

movie

#12『ペコロスの母に会いに行く』

©2013『ペコロスの母に会いに行く』製作委員会
©2013『ペコロスの母に会いに行く』製作委員会

 ペコロス(=小さなたまねぎ)みたいなハゲ頭の息子ゆういちと、認知症の母みつえの物語。「介護」や「認知症」という重くなりがちなテーマを、笑いと愛情たっぷり!ハートウォーミングに描き出している。

 ゆういちは団塊世代のバツイチ男で、漫画を描いたり音楽活動をしたりと趣味にうつつを抜かすばかりで仕事にはまったく身が入らないが、認知症の母と息子の3人でそれなりに楽しく暮らしている。

 みつえの認知症は、夫さとるが亡くなった頃からはじまった。最初は物忘れがひどいという程度だったのが次第に家族の手に負えない状況となり、ついに施設に入所することになる。母を裏切ったような罪悪感に悩むゆういちだったが、暇さえあれば毎日のようにみつえに会いに行き、施設に暮らす老人たちやその家族とも交流を深めてゆく。そして、錯乱するみつえの言動からは、夫との想い出や長崎に原爆が投下された日のことなど、彼女が歩いてきた人生が見えてくるのだった。

 これは、実話を元にした物語である。原作は長崎在住の漫画家・岡野雄一氏によるエッセイ漫画で、2012年に地元でひっそりと自費出版された本だった。

 しかしFacebookに応援ページが立ち上がると、あれよあれよという間に”いいね!”を獲得し、本の売り上げが急上昇。完売と再販を繰り返して、ついに西日本新聞社から再編集版が出版され、現在では全国で16万部を超える売り上げを記録している。

 経験談だからこそ語れるセリフ。それがこの物語の面白さであり説得力だ。

 ある日、息子の顔すら分からなくなって「悪もんが来た!」と騒ぐみつえに、ゆういちは被っていた帽子を脱いでハゲ頭を見せる。すると「なんや、ゆういちやっかー」とハゲ頭をなでて笑うみつえ。ゆういちは「ハゲてて良かった~」としみじみ思ったりする。辛いできごとが微笑ましいエピソードに生まれ変わる、そんな魔法がこの作品にはたくさん詰まっている。

 介護の現場は辛いことの連続だ。認知症の介護で一番ショックな瞬間が、子供や配偶者など近親者のことを忘れてしまった時だという。そしてその苛立ちを患者さんにぶつけてしまうケース(罵倒したり暴力をふるったり)もあるそうだ。私は現在、介護をテーマにしたラジオ番組をやっているが、介護に悩む人の数は驚くほど多く、番組宛のメッセージには悲痛な心の叫びが綴られる。

 認知症と一言でいってもその症状や進行の具合は人それぞれだし、原因や治療法も分かっていない中で、残念ながら完治するということは、まずあり得ない。だからこそ、介護する人間は苦しむのだ。

 がんばれば治る、というものではない。その無力感。症状が進行するほどに人間が“壊れていく”のを目の当たりにしなければならない苦痛。なかなか他人に相談したり頼ったりできずに、一人で悩みを抱え込んでしまう人も多い。

 また、働き盛りの30代、40代の人が、介護のために会社を退職するケースも増えている。無収入での介護、そしてその先には自分自身の老後もあるのだ。さらに、厚生労働省は、現在1割負担とされている介護保険の利用料を、一定の所得がある場合には2割に引き上げると発表した。これに消費税率の引き上げも重なれば、経済的な不安は重くのしかかる。

 介護する人のこういった現状が劇的に改善される、なんて奇跡は起こらないだろう。

 しかし、この映画や原作漫画は、その肩の荷を少しだけ軽くしてくれるかもしれない。よく、介護をしていると映画館に行く時間などないという声を聴く。映画が無理だったら原作漫画を手元に置いて、少しの時間目を落としてみてもらいたい。きっと、ふっと笑える時間が増えるだろう。そして自分の生活にフィードバックされる思いがあるはずだ。

 笑う時間―。小さなことに思えるかもしれないが、案外、そういうことが大切だったりするのだ。

 

NTM

(文・河村由美)

 

 

監督:森﨑東

出演:岩松了 赤木春恵 原田貴和子 加瀬亮 竹中直人 ほか

配給:東風

2013年/日本/113

 

http://pecoross.jp/

 

 

1116日(土)より全国順次公開

2013/10/05