特集第21回:「殺処分ゼロ」へむけて

animal rights


「猫付きマンション」が話題だ。その部屋には猫がもれなくついてくる?それとも、猫の住む部屋に人間が同居させてもらえる?「まさか!」そう思うかもしれない。

 おとぎ話のようだけれど、そんな物件がいま東京を中心にすこしずつ増えている。いやいや、本当の話。この3年ほどで20件を超える猫付き物件に入居があったとか。

 実はこの「猫付きマンション」、動物保護のNPOと都内の物件管理会社が手を組み考えだした、新しいボランティアの形なのだ。部屋のオーナーと入居者、そして保護団体が一緒になってひとつの命を守っていこうという取り組みだ。

 私たちにとって、とても身近な動物である犬や猫。経済が低迷しても衰えないペットブームの影で、いまだ16万を超える命が人間の手によって殺されている。そして「殺処分」という行政の一環として奪われる命の75パーセント以上が、猫のものだ(2012年度・環境省)。1頭でも「殺さない」仕組みをなんとかつくっていきたい。地道な活動の背景には「生かす」ための負担をみんなでわけあっていこうという思いがある。

 足りないのは愛情ではなくシステム ― 。そう訴えるNPO法人「東京キャットガーディアン」の大塚シェルターで、小さな命を守る活動について訊いた。

 

(文/訊きて・小澤治美/河村由美 写真・宮津かなえ)


 想像してみよう。とある市の職員であるあなたは、今日付けで動物愛護センターへ配属になった。センターには毎日何頭も犬や猫が持ち込まれてくる。飼い主から捨てられてしまったり、路上で繁殖してしまったりして、誰にも必要とされない動物たちだ。いつまでも彼らをここへ置いておくのでは増えるばかり。「愛護」とはいいながら、当然「処分」することも仕事のひとつ。

 でも、なんとか殺さずに済ませられないものか。状態のいい子をピックアップしてケアをし、ご飯をあげる。月に1度の里親会へ連れて行こう。いい人にもらってもらえるといいね。

 でも、どうしてももらい手のみつからない子たちがいる。選別されて、残ってしまう子たちがいる。

「ケアをしてご飯をあげて、頭をなでている子たちを、もらわれなかったら自分の手で処分をする」

 なんというつらい職務だろう。いっそのこと、最初から右から左へ処分してしまったほうが・・・。「目をつぶったらできるかもしれない。仕事だから」

 いまだに16万頭を超える動物たちを、誰かが殺している。誰もが「殺さないで」と願うのに、なぜ?

 その問いに、東京キャットガーディアン(TCG)代表の山本葉子さんが言った。「想像できるでしょうか?」

東京キャットガーディアン 大塚シェルター
東京キャットガーディアン 大塚シェルター

と。行政だけではない。命を預かったことがある者なら、誰もが多かれ少なかれ感じるジレンマかもしれない。

 

助けたい人が「9割9分」

 山本さんが個人シェルターとして猫の保護活動を始めたのは2002年。以来4,000頭近い命を殺処分から救ってきた。現在、大塚と西国分寺で猫カフェ型シェルターを運営する。猫の殺処分ゼロを目指し、保健所や保護センターからの引き取り、飼育希望者への譲渡活動を行っている。飼い主のいない猫のための去勢・避妊手術を専門とする動物病院の運営も手がける。むやみに増やさないことが「殺さない」ことへの第一歩となるからだ。

 現在引き取りを行っているセンターは都内(本所、多摩支所)と埼玉県(南支所)、さいたま市、横浜市、川崎市。もちろん個人からの引き取り要請もある。山本さんの携帯電話には1日50件を超える”SOS”がかかってくる。

「内容はピンキリ。腹の立つ電話ももちろんある。『今すぐもっていけ、もっていかないなら川に捨てるぞ』みたいな。でも、うちにかけてくるということは殺したくないということ。(もし本当に)殺るなら殺ってしまっていると思う」

 玄関先で弱っている猫や大雨で流されている猫を見捨てられないという「巻き込まれ型」であっても、助けたい人が「9割9分」だと話す。

 しかし、だからといって現在全国の自治体で殺処分されている猫をすべてTCGで受け入れることはできない。問題は場所と飼育費用だ。

 それならば、と考えたのが「猫付きマンション」だった。助けたい人がいる場所へ、もらい手の少ない成猫を届けることが目的だ。TCGが手術、ワクチン、駆虫などの必要な医療を施し、24時間態勢で相談を受ける。入居希望者は猫を預かるための審査をうけ、飼育費用は本人負担だ。飼えなくなった場合はTCGに返すこともできるが、そのケースはいままで1件もないという。希望すれば生涯の伴侶としてもらい受けることも可能だ。

東京キャットガーディアン代表 山本葉子さん
東京キャットガーディアン代表 山本葉子さん

 物件のオーナーは「猫付きマンション」を売りにできる。なかには猫が遊べるタワーを設置したりして内装を猫仕様にする人もいるが、必須ではない。「猫付き」という付加価値をつけながら、マンション経営で社会貢献もできる。まさにオーナー、入居者、保護団体の三位一体型ボランティアなのだ。

 

「殺処分ゼロ」は可能か

 もちろんこの方法が殺処分ゼロへの決め手となるにはまだまだ数が足りない。成猫の居場所を大幅に増やすために、今月には「猫付きシェアハウス」をオープン予定だ。

 殺処分ゼロは可能だ、と山本さんは言う。行政が受け入れをやめてしまえばいいのだ、と。保護団体だけではなく、ごく普通の人たちも一緒になって問題にあたればいいというのが山本さんの考えだ。

「みんなで分かち合おう。少しずつなら負担はたいしたことはない。日本の国民全員がやれば、子猫の里親探しを年に1頭するだけで済む」

 全国で16万頭を超える犬や猫が殺されているとはいえ、実はその数は激減している。1974年度には122万頭以上が処分されていた(そのほとんどが犬・環境省)という数字をみても、殺処分ゼロまで本当にあと一歩かもしれないと思わせる。

 しかし同時に、山本さんは数字に現れない処分についても警鐘を鳴らしている。ペットショップに陳列される

写真提供:(株)リビングゴールド
写真提供:(株)リビングゴールド

まえに処分されてしまう動物については、その全容は明らかではない。

「スコティッシュフォールドの耳が立ってしまったら、アメリカンショートヘアの渦巻き(模様)がでなかったら、売り物にならない。虐待ではないがコストの問題」

 まずは消費者が変わらなければ、と山本さん。消費者が動物と暮らしたいと思ったとき、ペットショップで買うのではなくシェルターからもらい受けるという選択肢を確立できれば。

 ペット産業にとっての生体販売は、“悪気”ではなく“生業”だと考えている。

「こちらとしては生体販売とパイを奪い合っている。あっちよりこっちのやり方のほうが成功しているね、ということを見せるしかない」

「エシカル・コンシューマー(倫理的判断をする消費者)」と彼女は言った。「殺さない」仕組みは、私たちひとりひとりの選択で可能になる。

  

NTM

NPO法人東京キャットガーディアン

http://www.tokyocatguardian.org

クラウドファンディング

「保護された猫と暮らせる『猫付きシェアハウス』を造りたい」

https://readyfor.jp/projects/catsharehouse


コメント: 1
  • #1

    タケシ (日曜日, 03 8月 2014 11:23)

    社会勉強になる記事